もう何年も前の話。
以前私が勤めていた職場は、ほかの会社に比べれば飲み会や接待ごととは縁遠いところでしたが、それでも年に何度かは同じ部署や仲の良いお姉さまがたから「こんど食事会でもしましょう!」と声がかかることがありました。
ふつうの人にとっては親睦となるものが、私にとっては苦痛と不安の何物でもありませんでした。
摂食障害であることは、職場には言っていませんでした。
なにしろ「体調が悪い」とでも言おうものなら根掘り葉掘り聞いてくるか、しまいには「ひとり暮らしだから不摂生になりがちなのよ」とお説教をされるのが関の山です。ましてや過食だ拒食だ、メンタルの病だなんて言おうものならどういうことになるか。恐くて言い出せませんでした。
しかしあるとき、とうとう断りきれずに返事をしてしまったことがありました。
自分なりに「逃げちゃいけない」と思ったのか、イヤな人と思われたくなかったのか、もう覚えていませんが、とにかくOKの返事をしたその日から、当日のことが頭から離れなくなってしまったのです。
どんな食べ方をしたらいいのだろう?
どんな話をしたらいいのだろう?
不安が不安を呼ぶ、とはまさにこのことです。
その食事会は休業日の夜にセッティングされていたのですが、私はその日の朝から気分が悪くて起き上がることができませんでした。
結局、幹事さんに電話をしました。ドタキャンです。
翌日、食事会に出席していたお局様に出勤早々欠席のお詫びをしていると、先払いしていた会費を返しに幹事さんがやってきました。あわてて断ると「いえ、もう精算も済んでいますし、お金が宙に浮くのはかえってこちらも困りますので」とハキハキと言い残して立ち去って行かれました。
こんなに気まずい思いをするなら、どうせ嫌味を言われるんなら、最初から断ればよかった…。
この出来事が重荷になって、ミーティングに通いだして症状が落ち着いてからも、なかなか職場の人との集まりに出かける気持ちがわきませんでした。
そんなある日、ランチのお誘いがありました。
人数も5〜6人と少ないし、女性ばかりだし、今度こそとOKしました。
なんとかなるかと思ったのです。
ところが、そこでのみんなの話題は、その場にいない上司や同僚の悪口ばかり。
とりあえず、話を聞いているという態度だけ示しておけばいいやと思って、話し手のほうを見ながら適当に相づちを打って…という芸当はできるようになっていたので、あとは黙々と料理を平らげました。なんとか当初の目標は達成できたのですが、帰宅するなりドッと疲れてしまいました。
やっぱり、めんどくさいなあ…
せっかく美味しい料理を食べるのに、なんでわざわざあんな話ばかりするんだろう。ふつうの人はあれでストレス発散になるんかいな。
以来、食事に行くメンバーをさらに吟味するようになり、気が進まないときはどうにか理由をつけて、でもはっきりと断るようにしました。
その頃には、仮に「付きあいが悪い」と言われても気にならないようにもなっていたんですけどね。
自分が食べ方にこだわっているときや、人との付き合いが辛いときは無理して(というか、人の目を気にして)食事の席につきあうことはありません。最後にしんどい思いをするのは結局自分ですもん。
私はまず夫と一緒に食事をして、それから自助グループのメンバーとイベントのときに一緒に食べて…と徐々に慣らしていきました。やっぱり親しい人と一緒に食べるのがいちばん美味しい!と今さらながら思っています。